誰かと話がしたい
暗い話にばかりやたら詳しくなったもんだ。
もみあげに白髪も出てきたし、虫歯が原因で偏頭痛がする。暗い話は旬のスイカのごとく巨大でフレッシュなのに、明るい話はひとつまみの塩くらい少ない。
こんな私を笑ってほしい。
昨夜の妻との会話。日中は子育てで忙殺されているので夜に夫である私や義母に話を聞いてもらうのがガス抜きや心の安定になっていると。
それは大いによかった。相手に歯磨きをする隙を与えないくらい小一時間も話していればガスもしっかり抜けることだろう。
私は眠気を堪えて、しっかり捕球できるようにミットを構えている。こちらのサインは見えていないらしく、球種もスピードも超高校級だ。
要するに私は話を聞いているが、誰にも話すことがない。業務的な暗い話をする相手しか身近にいないのだ。
田舎の工場勤務なので残業が少ない代わりに、退勤後はドラッグストア以外に寄り道せず帰る。
ミニスカートの派遣さんが来るでもなく、急に旅に出る奴もいない。決まった休憩時間にコロナの感染情報と地域振興券がいくらとか、人身事故がどうとかの話をこれまた捕球するだけ。ナイスピッチングとか言って。
たわいもない話でもいい。最近太ったという話を肴に酒を酌み交わしたい。
昔から他人に対して積極的にアプローチすることはなかった。それでも、余計な会話が疎ましいと思うほどに、周りの人に恵まれていたんだ。
環境のせいもあるし私自身の変化のせいもあるが、とにかく話相手がほしい。寂しいとか暇なのではなく人間として会話は必要なんだと思う。どういう感情なのか自分でも分からないけれど。