独楽の回転数

煩悩の少なめでお願いします。

(続)好きな女の子の話

女神が下界から去った世界で私は平穏に過ごした。

 

女神様の髪の毛すら残されてはいなかったが、失恋のショックでご飯も喉を通らないとはならなかった。中学では部活を頑張ったし、高校はほぼ男子校で進学コースだったので恋愛にがっつく暇はなかった。

 

進路を決める頃になると東京へ行くルートがチラついた。もしかしたら偶然に彼女と再会出来るかも知れないと。

 

待て待て。映画の見過ぎだ。よしんば再会できたとして、数年ぶりに現れた芋っ子を相手にしてくれるはずがない。もしかしたら彼女にとっては田舎で過ごした数年間がキャリアの汚点となっている可能性だってある。

 

ということで女神様の後を追うのはやめて、自分の人生を生きていこうと歩みを進めたのだった。

 

大学、社会人といろんな人と出会ったり付き合ったりした。みんな魅力的だったと思う。

だけど、どこかで彼女のゴーストと比べてしまう。お付き合いした女性には大変申し訳のだが、彼女のゴーストが強すぎて夢中になれないのだ。

 

向かいのホーム、路地裏の窓、こんなとこにいるはずもないのに。

 

時は流れて私が30歳くらいの時。その頃になるとスマホSNSが復旧して個人情報などすぐ手に入る時代。会社の同僚と音楽か何かの話になって、ふと彼女のことを思い出した。

 

Safariに彼女の名前を打ち込む。

検索結果がいくつも出てくる。ニュースや肩書きだけでは彼女かどうか判別できない。

画像検索。

 

いた。

 

彼女の顔が手元のスマホに映っている。見た目は全く変わっていない。何か賞状みたいなものを持って笑っている。何歳の時の画像はわからないが成人はしているんだろう。

彼女と思しき画像は他にもあった。肩が出ているドレスを着てグランドピアノに向かっている。

画像の出典元のサイトを確認。彼女は大学の講師をしながらピアニストとして活躍していた。

有名な大学ではなかったが、大学の名前に見覚えがあった。当時私が担当していた埼玉県某市にキャンパスがある大学。

 

駅前ですれ違っていた可能性はゼロではない。電車で同じ車両に乗っていたかもしれない。

 

しかし、もしすれ違っていても私なら必ず気づくはずだ。一度会った人の顔が分からなかったのは成人式で派手にリフォームした地元の友達だけだ。

 

だからと言って、何か進捗させる気はなかった。彼女は変わらず美しいことが分かったし、結婚しているかもしれない。何より私が忙しすぎた。

 

いつの間にか女神様と同じ空気を吸える場所に自分がいた事がうれしかった。背広を来た芋っ子は転がって天界のラウンジまで来れた。

 

アニヲタなんかより私の方が不健康で気持ち悪いなと思いつつも、素敵なことを懐古できてよかった。

 

現場からは以上です。